日本でのガン死亡者数の増加
日本でのガンによる死亡者数は、1971年には1年間で約13万人でした。それが2001年には約30万人、2011年には約34万人とうなぎのぼりです。
それは寿命が延びたからだとか、人口が増えたからだと言う方がいますが、人口は1970年で1億466万5000人で、2011年は1億2779万9000人なので、この40年で2千3百万人ほど増えただけです。これに対してガンの死亡者数は年間21万人も増えているのです。
平均寿命は男性では約8歳、女性では約10歳上がりましたが、そのことがここまでガンの死亡者を増やす理由になるのかは疑問です。 厚生労働省のガンに関するホームページにも「がんの危険因子のうち特に重要なものは、1)喫煙、2)食物等である。」とありますので、喫煙率は減少していることを思うと、ここ40年間の日本人の食生活の変化が、ガン死亡者数増加の大きな要因となっているのは間違いなさそうです。
アメリカではガンは減っている
アメリカでは、毎年約300万人も人口が増加しています。そして平均寿命もどんどん延びています。
アメリカでも1973年から1989年までは、ガンの死亡率はずっと増加の一途をたどっていました。ところが1990年以降、アメリカでのガンの発症率は減少していくばかりで、ガンによる死亡者数も2003年から減少し続けています。日本と同じくずっとガンの死亡者数や発症者数が増加の一途を辿っていたアメリカに、いったい何が起こっているのでしょうか。
マクガバンレポート
事の発端は、1977年のマクガバンレポートにあると言います。当時のフォード大統領は、ある時、疑問を持ちました。
「アメリカは医学が進歩している国であり、医療に莫大なお金をかけている。にも拘らず、こんなにガンや心臓病、生活習慣病、糖尿病が増加の一途を辿っているのはなぜだろう? 何かが間違っているのではないか?」
そして大統領は特別委員会を設置し、あらゆる分野の専門家を集結し、国家的な調査プロジェクトを始動させたのです。その委員会の委員長がマクガバン上院議員でした。
そして、19世紀以降のアメリカの病気の変化と食生活の変化を歴史的に追求したり、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、中近東でも同じ調査を行い、150年前には伝染病で死亡する人はいても、ガンや心臓病、脳卒中などの病気が皆無だったことを発見しました。発展途上国では、今もそうした病気が少ないこともわかりました。
そして、そこに共通するのは、やはり食生活の違いだ、ということにたどり着くのです。
特別委員会は、国家プロジェクトとして、世界中の国々を地域別、人種別などに細かく分けて食生活と病気、健康状態との相関関係を専門的に分析しました。各国の医師、生物学者、栄養学者など3000人を超える人々がこの調査に加わり、2年の歳月をかけてようやく完成したのがマクガバンレポートです。これは5000ページにもおよぶ膨大な内容なのですが、要約すると……
●ガン、心臓病、糖尿病などの原因は現代の食事にある。
●現代の医師は栄養素の知識をまったく持っていない、このために病気が治らないのだ。
現在は薬に頼った医学だが、病気を治す根本は薬ではなく自然治癒力。それを高めるのに最も大切なのは食べ物である。
●これまでは病原菌退治中心の医学だったため、栄養コースを必須にしている医大はわずか4%である。医師の再教育が必要だ。
アメリカが国家プロジェクトで調べ上げたマクガバンレポートには、「現在の我々の食事は不自然で、まったくひどいものである。この食事がガン、心臓病、糖尿病などの現代病を産んでいる」とあります。
この現代のひどい食事とは、高脂肪、高カロリーの動物性たんぱく質に偏った食事ということです。そして「世界に1箇所だけ理想的な食生活を送っている国がある。私達はその国の食生活を見習うべきだ」とも書いてあります。
この国はどこかと言うと、なんと他ならぬ日本なのです。しかも現代ではなく、300年前の元禄時代の日本だそうです。
これが具体的にどういう食事かと言うと、精白しない穀類を主食に、季節の野菜や海草や小魚という内容です。動物性の脂肪、精製加工した糖分を減らし、こういう食事をすることが大切だとレポートされています。
皮肉なことに当の日本では、食生活がどんどん欧米化してしまっています。日本の栄養学もいまだにカロリー計算ばかりで、古い栄養学から抜け出せていません。
医学会でも、日本では今も食事療法や栄養学は重視されていません。栄養学が必須科目な医大は片手で数えるほどしかないそうです。退院する時お医者さんに何か食事で気をつけることはないですか?と聞いても「バランスよく食べて、体力をつけて下さい」としか言われない事が多いですよね。
それもそのはず、お医者さんは栄養学を知らないのです。大学でもほとんど習っていない方が大半なのです。
デザイナーフーズプロジェクト
このマクガバンレポートを受けて、その後のアメリカは改善に向けて政策を打ち出し、厚生省、農務省保健福祉省などがガイドラインを出しました。国立科学アカデミーは研究報告書を作成し、1990年には国立ガン研究所のデザイナーフーズプロジェクトがスタート。
ガン予防に有効な40種類の食品をピックアップし、重要な順にピラミッド図を製作しました。上に行くほど重要度が高いとされています。
5 A DAY運動
その後もアメリカでは、大規模疫学調査などで、禁煙やアルコール摂取を控えることでガン発症を減らせることや、野菜や果物を多く食べることで、かなり抗がん作用があることなどを突き止めていきました。ガンだけでなく、肥満やその他の生活習慣病にも有効だということが分かってきたのです。
そして1991年、農務省、国立ガン研究所、民間企業、民間団体が協力し、野菜、果物を1日5皿以上食べようという「5 A DAY」運動が始まりました。イギリス、フランス、カナダにも広がり、日本でも2002年に「5 A DAY」協会が設立されました。
野菜は1日5皿(1皿70g)、果物は200g以上食べよう、というのがこの運動です。
70gの野菜の目安はトマト2分の1個、なす1本、きゅうり3分の2本、レタス5枚、にんじん2分の1本。200gの果物というのはバナナ1本、りんご1個が目安だそうです。
日本の厚生労働省でも、現在は1日350g以上の野菜を摂取することを推奨していますが、これは、この5 A DAY運動と同じ量ということになります。
アメリカでの代替医療の発展
アメリカでは、食事以外にも自然治癒力を高めるため、西洋医療以外の道も模索されるようになりました。
1992年に、日本の厚生省にあたる国立衛生研究所に代替医療部が設けられ、代替医療の有効性を研究し、評価に値するものに支援がなされています。東洋医学、栄養療法、ハーブ療法、心理療法、カイロプラクティック、ゲルソン療法などなど、多岐にわたる代替医療の研究がされています。現在では多くの州で代替医療に保険が適用され、西洋医学一辺倒ではなく、さまざまな代替医療も取り入れた統合ホリスティック医療の道へ進んでいるそうです。そういう事すべてがガンの発症率、死亡率共に減少している、という成果を生んだと言われています。しかし日本ではまだ代替医療は、医学界からほとんど受け入れられていないのが現状です。
日本は平均寿命も世界一ですが、寝たきり老人の数も世界一と言われています。適切な食事指導で免疫力を高め、予防医学にも力を入れるようなお医者様も存在していますが、ごくごく少数です。早く適切な改革が望まれますが、ともかく今のところ、基本的には自分の身は自分で守り、そもそも病気にならないような食生活をおくるのが一番です。