飽食の時代の栄養失調

飽食の時代なのに「栄養失調」 若い女性や高齢者に増加中

2010/7/14 日本経済新聞 プラスワン

食べたいものが何でもすぐ手に入る飽食の時代に、専門家らは「低栄養(栄養失調)」に陥らないように気をつけるべきだと注意を呼びかける。食が細る高齢者とやせ志向の強い若い女性に顕著で、放っておくと健康をじわじわとむしばんでいくという。

「70歳以上のおよそ6人に1人は低栄養な状態にある。粗食がいい、というのは高齢者にはあてはまらない」。こう言い切るのは、人間総合科学大学の熊谷修教授だ。

肉も毎日少しずつ

墨田区は高齢者を対象に「低栄養」を回避するための介護・健康教室を毎年開いている。

長年、東京都老人総合研究所で元気で長生きするための正しい食生活について研究してきた。生活習慣病対策としてメタボリック症候群という新しい「病気」が登場するなど、このところ栄養過多を問題視する社会の風潮が強まっているが、これが高齢者に誤解を与えているとみる。

日本人が1日にとるカロリー量は実は減少傾向にある。厚生労働省が3月に公表した2007年国民健康・栄養調査報告によると、1人当たりの平均エネルギー摂取量は1975年の2188キロカロリーをピークに減り続け、2007年は1898キロカロリーまで下がった。戦後すぐのころとほとんど変わらない水準だ。ほかの先進国と比べても極端に少ない。

確かに中高年にとって太りすぎは糖尿病や血管系疾患を発症するリスクとなり、肥満解消によって生活習慣病の予防になる。ただ、高齢者の場合、残りの人生を元気で過ごすのが一番で、体の老化を遅らせて健康寿命を全うするかが、健康維持に結びつく。

低栄養かどうかを知る上で最近着目されているのが血液中のアルブミン量。アルブミンはたんぱく質の一種で、骨や筋肉のもとになる。足りなくなると足腰が次第に衰え、一度に長い距離を歩けなくなったり、歩く速度が遅くなったりと、自立機能が低下していく。閉経後の女性では太っていてもアルブミン値の低い人が意外に多いという。