櫻井よしこ 介護食

TOP >国内 >香山リカ氏と櫻井よしこ氏が考える“介護食”で大事なこと

香山リカ氏と櫻井よしこ氏が考える“介護食”で大事なこと

2018.03.06 11:00

4
 
0

自宅介護で母の好きなものを食べやすく料理しているという櫻井さん

写真1枚

 親も自分も元気だったら、「食べたいものを死ぬまで食べたい、食べさせたい」と笑って話せるだろう。しかし、いざ親が要介護になると、家族は親に食事制限を強いてしまうこともある。

 精神科医の香山リカさん(57才)が語る。

「腎臓を悪くした父に長生きしてほしい一心で、食事内容を管理していました。両親と離れて暮らしていたので、食事内容を母にFAXしてもらい、栄養素を計算して『おやつはだめ』『この内容は腎臓に悪い』と制限した。それが父には苦痛で、『そこまでして食べたくない』と食欲がなくなってしまった」

 制限したことを後悔すると同時に、父がいかに食に喜びを見出していたのかも痛感した。

「ラーメンが好きだった父は、最期まで『あの時のあのラーメンはおいしかったな』と昔食べた味に思いを馳せていました。おいしかった食べ物の記憶は色褪せない。だからこそ人生の終わりに食べたいものを食べられないのは悲しいですよね」

 人生の終盤を迎えた親にとって、もしかしたら、ひと月先の夕食が、1週間先の昼食が「最期の晩餐」となるかもしれない。ならば好きなものをおいしく楽しく食べてほしい。とはいえ、すでに介護食を摂っている場合、常食に戻すことは可能なのだろうか。

 高齢者歯科学を専門とする、東京医科歯科大学の戸原玄准教授の調査によれば、「常食が困難」と診断された患者5000人以上のうち、85%はまだ食べる力が残っていることがわかった。

「嚥下障害は訓練によって改善する可能性が高い。実際に脳梗塞で倒れ、医師から“一生口から食べられる可能性はありません”と宣告された患者さんが、2年のリハビリで、口から食べられるようになった例もあります。嚥下障害は、筋肉の衰えによって起こることが大きいので、お年寄りには予防のためにも筋トレやストレッチを実践していただいています」

 そう語る戸原准教授がとくに勧めるのは、あばらとあばらの間の筋肉のストレッチだ。胸の前で両ひじを軽く持ち、そのまま頭の上まで持ち上げるようにすると、肋間筋がよく伸びて柔らかくなり、呼吸が深くなってむせにくくなる。

0

 そのほか、口を大きく開けたり、素早く開閉を繰り返したりという、口まわりの筋肉を刺激すると誤嚥が減る。筋トレやストレッチなどのリハビリを経たら、ゼリーをのむ練習をすることが多いという。それに慣れたら、カレーライスやグラタン、スープやオムレツなど普通の食事の中にあるのみ込みやすいものを、少しずつ無理のない範囲から試していく。

 これを実践するのが、ジャーナリストの櫻井よしこさん(72才)だ。櫻井さんは2005年から実母・以志さん(107才)を自宅介護しており、食事は「好きなものを口から食べさせる」ことを第一に考えている。

「母は自分で動けませんし、少し言葉が出づらくなっていますが、それを除けば私たちとまったく同じ。だとしたら、誤嚥を恐れて流動食なんて人生楽しくない。私たちと同じに、口からおいしいものを食べて、食べる楽しみを感じてもらいたいんです。おかゆから始まり、おかずやデザートまで、7品をコースにして毎日出しています。私よりよっぽどバランスのとれたおいしいものを母は食べていますよ(笑い)」

 料理は少し噛み応えのあるサイズにして、口当たりを楽しんでもらう。そして目でも楽しめるよう、彩りよく盛り付けている。

「くも膜下出血で倒れた時は、植物状態になるかもしれないといわれていたのですが、お医者様もびっくりするくらいの回復です。今ではステーキも食べられるようになりました。母から食べる楽しみを奪わなかったことも、衰えなかった理由の1つだと思います」(櫻井さん)

※女性セブン2018年3月15日号