ミルクと無縁コーヒーフレッシュ

“コーヒーフレッシュ” の危険性を、開発者自身が警告!

先日のことである、ある友人と品川の喫茶店、ルノアールで会った。そのとき彼はコーヒーを注文し、わたしはレモンティーを頼んだ。ウェイトレスが、注文品をテーブルに置いていくと、コーヒーといっしょに運ばれてきた小型のバスケットから、友人はほとんど自動的に “コーヒーフレッシュ” を取って開けようとした。わたしは手を出して彼を制し、こう言った。「それはやめたほうがいいですよ。その中身が何だか知っていますか?」

あまりにも身近な盲点!

この問題はわたしにとっては4年ほど前にすでに解決済みなのだが、この問題を知らずに、習慣的かつ自動的に “コーヒーフレッシュ” なるものをコーヒーに入れてから飲み始めるひとが、わたしの友人を含めて未だに非常に多い。先月地元のスタバでは、サラリーマン風の中年男が帰りがけに “コーヒーフレッシュ” を5,6個わしづかみにして出て行くのを目撃した。家で使うのだろうか。

B郞(40代)はこの秋の昇格人事で部長になった。働かない上司のA男(50代)に気配りしつつ、激務をこなしているのだから当然だ。それなのに妻のC美(30代)には「もう少し家庭に目を向けてよ」と不満をぶつけられる。戦う男は体調とメンタルをつねに万全にしておかねばならない。そこで「1日に必要な野菜が取れる」野菜ジュースを飲むようになった。息抜きのコーヒーは、ブラックだと胃に悪い気がするので必ずコーヒーフレッシュを入れる……。
 

 消費者はもうちょっと疑問を持って!

  

  
 
安部 司(あべ・つかさ)
1951年福岡県生まれ。山口大学文理学部化学科卒。総合商社食品課に勤務後、無添加食品の開発・推進、伝統食品や有機農産物の販売促進などに携わり、現在に至る。熊本県有機農業研究会JAS判定員。経済産業省水質第1種公害防止管理者。工業所有権 食品製造特許4件取得。食品添加物の現状、食生活の危機を訴えた『食品の裏側』は60万部を突破するベストセラーとなる。そのほか、『食品の裏側2 実態編』『なにを食べたらいいの?』などの著書がある。

  

コーヒーフレッシュは 「ミルク」 ではない

コーヒーフレッシュは何でできている?

安部さんは食品メーカーと一緒に、まさにこの “コーヒーフレッシュ” を開発していた。

「コーヒーフレッシュは何からできているでしょうか」 と講演で質問すると、ほとんどの人が 「ミルク 」や 「生クリーム」 と答える。「そんなものは入っていない。植物油と水と食品添加物からできています」 と、作り方を教えると一様に驚くという。

まず植物油と水を混ぜる。水と油は分離するので 乳化剤 を入れる。すると混ざって白く濁る。さらに、とろみをつけるために 増粘多糖類(一括表示)を入れて、カラメル色素 で薄く茶色にすると、いかにもクリームのようになる。そこにミルクの香料 (一括表示)を入れて、日持ちをさせるためにpH調整剤(一括表示)を入れて出来上がり。

ちなみに “乳化” とは、英語で “emulsion” エマルジョン といい、“乳(milk)” の意味は皆無である。日本語の “乳化” とは、単に見た目と感触がミルクのようになるというだけのことで、成分が “ミルク化” するわけではない。

カフェのコーヒーフレッシュ

「普通のミルクや生クリームをコーヒーに入れると、ほわっと上がってくるでしょう。あの上がり方を再現するのが難しかったなあ。1年かかったよ。でも簡単に元は取れた。原価が安いし、外食系企業がぼんぼん買ってくれたからね」

コーヒーフレッシュの正体は 添加物だらけの “ミルク風味の油” だった。「ミルクがなぜ常温で置きっ放しでも腐らないのか、ちょっと考えたらおかしいと思うはずだけどね」 と安部さん。おかしいと思わない消費者の感覚こそが、おかしいのかもしれない。

ミルクの香りは、人工的な香料の組み合わせで簡単に作れる。3,000以上あるケミカルな香料の配合によってどんな香りや匂いも作れると言う。再現できない匂いは無いそうだ。バラの香りから排泄物の匂いまで、本物と区別できないほどの水準で作れるそうだ。ミルクの香りなど朝飯前である。

 

このように、裏側を知るとギョッとするような 「原材料」 はまだまだある。たとえば、合成着色料は石油。「タール系色素」 とも呼ばれる。少量でムラなく色が出るのが利点だ。

現在、日本で食品添加物として認可されている合成着色料は12種類(赤色2号、赤色3号、赤色40号、赤色102号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、青色2号)。

イギリスの食品基準庁では、合成着色料を摂取した子どもに多動性行動が見られたという研究報告を受けて、「子どもの活動や注意力に悪影響を与える可能性があります」 という表示を義務化した。義務化されたうちの 赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号 は、日本で使われている。国によって取り扱いが異なるから不安である。 

 

「きれいな色」 だけでなく、「自然な色」 に見せるためにも、わざわざ着色料が使われる。前述のカラメル色素だ。

「赤っぽい茶色から真っ黒まで、いろんなカラメル色があり、私も売り歩いていた。日本の着色料の80%はカラメル色素。

コーヒーフレッシュにもこのカラメル色素が使われている。真っ白だと不自然に見えるので、カラメル色素を少し入れて 「褐色の恋人」 にするのである。

醤油やみその文化だから、茶色系は自然な色に見えて安心するのです。

ただし、カラメル色素には製法によって4種類あり、発がん性が疑われるものもある。なぜメーカーはその製法で作るのか。

「昔ながらの砂糖を煮詰める方法ではカラメル色が安定しないからです。特にクエン酸が入った酸味の中だと色があせていく。数年経っても色が変わらないように化学処理をする

消費者は、そうまでして 「きれいな色」 や 「自然な色」 のドリンクを飲みたいわけではなく、安全性が何より重要なはずだ。しかし、その判断をするためにも、メーカーの情報開示と、消費者の知る意欲が不可欠である。

 B郞はブラックコーヒーを飲みながら、自分に言い聞かせた。「国が認可しているし、大企業が売っているんだから安全だよなあ」

  <主要メーカー>