健康への道

健康への道

道ハ近キニアリ 2020

高砂市医師 是枝 哲也 日本綜合医学会事務局より許可

  • 日本の現状

自給率は低いが食糧に困らず、医学が進歩し、健康に対する関心は高く、テレビ、新聞、雑誌その他、知識や情報は溢れ、昭和四十年頃からは平均的には厚生省が定めた栄養所要量通りに食べて来た。健康保険制度は世界一で、其れを支える経済力もある。患者数200万人、毎年5~10万の若者の命を奪った結核も1/100に減少。死亡率が高かった麻疹や破傷風も予防注射のお蔭でゼロに近く、昔は恐ろしく子供でも知っていた赤痢、コレラ、腸チフス、天然痘など法定伝染病の名を知る人は少ない。

それにも拘わらず三人に一人、4000万人が病気で100万人以上が寝たきりである。受診しない人や病気を自覚していない人も多い。発症年齢が低下し高血圧や糖尿が子供にも増えた。殊に食生活が豊かになった昭和四十年頃以降の増加が著しく、医療費は42兆円(平成28年度)、毎年1兆円増えている。国の赤字は既に1000兆円を超えるが、この膨大な赤字を誰が負担し、どのように処理するのであろうか。

糖尿病は先の大戦中、唯一の治療薬でカナダからの輸入に頼っていたインスリンが途絶し、医師も出征して居なくなったが、食糧不足が深刻になるに連れて軽快し、発症する者が無くなった。則ち、糖尿病には治療よりも食糧不足の方が良かったのである。戦後は増えて私が医師になった昭和29年頃は推定2万人であったが、廃業した平成26年には600万人。60年間に1000倍に増え、今や四人に一人が糖尿である。糖尿だけではない、戦争中は結核と寄生虫症以外の疾患が激減したから、医師が出征して居らず薬が無くても、空襲が激化して負傷者が多発するまでは困らなかった。これはドイツでも同じである。

高血圧も3000万人、50歳以上の四割が高い。癌も増えて生涯に半分の人が罹患し三人に一人が癌で死亡する。認知症も診断基準に問題があるが急増して推定600万人、予想を遙かに上回って増え、65歳以上の15%、75歳では45.5%(零和元年)で、「年寄りは死んで下さい、国のため」という厳しい川柳は若者達の本音であろう。

近視も増え、小学生の34.6%、中学生の57.5%、高校生の67.6%。国民の1/3(4000万人)が近視である(零和元年)。近視者は目が近いだけではない。正視に比し健康度が劣る(結核その他の感染症にも罹り易く、欠席率や骨折率が高い)から、眼鏡をかけて済む問題ではない。進行すれば網膜剥離や失明の危険も増加する。近視は私の父の世代(明治後半)は一割であったが、私の世代(昭和一桁)は三割、息子の世代(昭和後半)五割、孫の世代(平成の初め)七割で、今や正視より近視が普通である。

骨折も増加しており、資料が古いが当地の小学生の8.9%、M学園の中・高校生の14.4%が骨折を経験しており、二回三回の経験者(全員近視)も少なくなかった(昭和54年)。もし眼鏡がなく骨折が直ちに治療できなければ、大半の人が車の運転も出来ず、障害者が溢れているに違いない。

 

  • 多病社会の原因

ビタミンB1を欠く高カロリー輸液で青年が死亡したという事件があった。また、沼田 勇先生が「結核の原因は脚気(B1欠乏症)である」と仰言ったことがある。驚いてお尋ねしたら、「結核は脚気でなければ発症しなかった」と。また、整腸剤キノホルムが世界中で汎用されながら、スモンが日本にだけ多発したのは、当時の日本人が憧れの銀シャリ(白米飯)を腹一杯食べられる時代が到来してB1欠乏症状態にあり、夏の暑熱や運動、熱性疾患などが引き金になって酸毒症が発生、体内に蓄積していたキノホルムからヨードが遊離して突発したと考えられる。もし玄米を食べていたら一週間や十日の高カロリー輸液で死亡することも、結核やスモンが多発することも無かった筈である。

生活習慣病のみならず、病気の六割を占める感染症に対する抵抗力にも日頃の飲食が大きく関係しており、現在の多病社会の到来は獣肉の多食やスイーツブームに因るところが大きい。我々の体は食物を焦性ブドウ酸やアミノ酸、脂肪酸、その他いろいろの酸に分解して利用し、不要の炭酸ガスは呼気に尿酸や蓚酸などは尿に出している。代謝に異常が起ると忽ち体は酸性に傾き(pH7.4>)、発病の素因を高める。病的組織は全て酸性化しており、炎症を起こした組織はpH6である。

関取が来日していたことのある南の島トンガは、大男大女が多いにも拘わらず成人病が少ないのが栄養学上の謎だった。ところが台風で農作物が全滅してタロイモ、魚、野菜の生活から、米国援助のパン、コカコーラ、コンビーフ、アイスクリームの生活に変った。すると僅か数年で高血圧が四倍、糖尿が二倍、そして心臓病が多発するようになったという。

飢餓と貧困で知られるアフリカでも、何らかの権利を持っている富裕な人達は、年中クーラーの効いたホテルに住んで洋食を食べており、全員が糖尿だという。飲食の欧米化が急速なほど影響が大きい。

沖縄県は長寿日本一を続けていたが、生活が欧米化した世代が壮年に達すると共に日本一から転落した。また山梨県の辺鄙な棡原村は健康長寿者が多いことで有名だったが(昭和四十五年頃)、道路が整備され交通が便利になって若者が東京に働きに出るようになると食生活が一変し、「親がピンピンしているのに脳卒中で倒れる子が出て来た」という。

確かに動物蛋白を重視した現在の栄養学は欧米人並みにという目的のためには正しかった。しかし健康長寿のためには誤りであった。この事は栄養指導者でもある医師の平均寿命が国民一般と同じという事からも明らかである。凡そ専門家が一般人並というのは医師の健康以外にはない。生物は栄養不足に強いが、栄養過剰には弱い。

「いくら文化、科学が進歩しようとも、人の内臓はそう変わるものではなく、その内臓を差し置いて反自然食物だけが独走先行することは許されない」(桜美林大学名誉教授川島 四郎)。その許されないことを当然のようにしているところに今日の不健康の原因がある。

 

  • 対策

抑も、健康に知識や努力は不要である。他の動物に虫垂炎や糖尿病がないことを考えれば対策は明らか。他の動物は自分の口や手足で獲得できる物を食べている。蚕は桑の葉だけ、コアラはユーカリの葉だけ食べており、極端な偏食である。彼等ほどでなくても、ライオンや虎は草食動物だけ食べ、キリンやゾウの強大な体は草や木の枝を食べて出来る。ゴキブリやネズミ、豚、人間などは何でも食べるが、雑食能力があるだけで、食べなければならないわけではない。動物によって程度の差はあるが、偏食が自然界の姿であり、それでこそ食物連鎖が成り立っている。どの動物でも食べるべき食物(適食、天食)が定まっており、毎日それだけ食べて居れば十分である。則ち、栄養というのは色々食べなければバランスが取れないのではない。其の動物の体に合った食物だけ食べておれば、バランスよく摂取されるように動物の体が出来ているのである。反って何でも食べると栄養のバランスは崩れ健康を損なう。人間もなるべく自分の手や口で採れる程度の食物を出来るだけ加工調理を控えて食べるのが良く、健康長寿者が多い玄米食者に学ぶのが簡単確実である。

玄米菜食者(兵庫県健康連盟会員、会長神戸商大学長 高木 雅敏)の多くは病気に困って食べ始めた人達であるにも拘わらず、高砂市曽根町民や兵庫県医師会員に較べて、平均10年長生きで70歳以下の早死には三分の一、85歳以上の長寿者は二ないし四倍、癌や六ヶ月以上寝たきりで亡くなった人も曽根町民の15%に対し7%であった。そして、神戸市灘区にあった兵庫県健康センターのシルバートリムテスト(高齢者向き運動能力試験)でも、当日来合わせた某老人会員に較べて各年齢層共10~20歳若かった。私は91歳、エエ加減ながら玄米食歴50年、いろいろ故障はあるが、今までのところ血圧・屎尿、40項目ほどの血液検査に異常なく、介護や服薬は不要である。

人間は人間的存在であると同時に動物的存在である。どこまで人間性(文化)を主張してよいか、どこまで動物性(生理生態)を尊重しなければならないか難しい。衣住その他、体外のことは少々不自然でも構わないが、体に入れる空気や飲食が不自然だと、遠からず健康を損なう。動物によって形や生態が異なるだけでなく、生理機能が異なる。犬や猫など肉食獣はコレステロール食に強いが、兎にコレステロールと砂糖を与えると僅か三ヶ月で動脈硬化が起る。人間は兎と同じく草食系動物であり、コレステロールに弱い。

昔のように平素、褻(ケ)の日は成るべく玄米に野菜、海藻、小魚などを腹八分に食べ、祝い事や祭事など晴れの日に御馳走、酒、菓子などを楽しむのが良い。少なくとも現在の欧米化した飲食を抑制しなければ多病社会は脱却できない。

百歳以上の長寿者の生活歴と亡くなる時の様子を調査された広島大学の名誉教授 黒田 直先生の結論は「健康で長生きし、苦しまずに永眠する道が確かにある。それは若いときからの自然界に従った生活の積み重ねである」であった。

4 結論

「本当の健康は出来るだけ自然に従い、従いきれないところを人知で補うという謙虚な考え方が必要である」(沼田 勇先生)。

5 付足 玄米食が体に良い理由

  • 日本人に最も不足し易いビタミンB1の外、白米では欠ける栄養素を含んでいる。
  • 玄米を食べていると自然に動物性食が減少し、大便(屁)が腐敗臭から発酵臭に変わる。そして消化管内に出血など異常があると臭くなるから、早く異常に気付くだけでなく、発病予防に繋がっている。
  • 食物の消化管内通過時間が短く、白米食の25~80時間(平均二日)に対し、半分の10~50時間(平均一日)で、腹の中に大便を抱えている時間が短い。肉食獣の腸は短く体長(頭~尻)の3,4倍、草食獣は長く17~23倍、人間は5,6倍(9m)である。
  • 大便の量は通常100~200g/日であるが、玄米食者は200g以上である。多いほど腸の蠕動運動を促進するだけでなく、大便中の有害物の濃度を下げる。
  • 一生の心拍数は動物によってほぼ定まっており人間はおよそ20~25億回。少食はその心拍数を節約する。
  • カビは生きている玄米にも1gに200個ぐらい付着しているが、それ以上は余り増えない。しかし精白すると二三日で数万に増えるだけでなく内部に侵入するから(正月のお鏡餅と同じ)炊飯前に研いでも取れない(沼田 勇先生)。カビの中には黄変米事件を起こしたような毒性が強いものがあり、軽視できない。
  • 玄米食者は野菜をよく食べる。昭和10年頃から35年以上かけて日本中くまなく歩いて調査された東北大学名誉教授 近藤 正二先生の結論は「野菜を大食しない所に長生き村は無い。果物は野菜の代わりにはならない」であった。
  • 玄米は炊くまで生きている。初代会長 二木 謙三先生は、リポイド(類脂体)が生きていることを重視された。
  • 埼玉県大宮の福島熊男先生に依れば、玄米食で不妊症の30%以上(正確な数字を失念)が2年以内に児を得た。追随した矢内原啓太郎先生も玄米と自然食だけで不妊者1864人中706人が妊娠(8%)したという。現在、夫婦の三割が不妊に悩んでいる。
  • 矢追秀武東大病理学教授の、ハツカネズミの赤痢菌に対する抵抗力実験では、二週間白米で飼育したグループは玄米で飼育したグループの1/2~3で死亡し、一ヶ月飼育した場合は1/8一で死亡した。チフス菌、デング熱、脳炎ビールスなどについても同様だったという。恐らくコロナVについても同じであろう。