プラごみ84%リサイクル?

ビジネス 2019/01/10 07:30

世界基準からズレた日本の
「プラごみリサイクル率84%」の実態

 

 

昨年、日本でもようやく地球の課題として認識された「海洋プラスチック問題」。単純に海を漂うごみ問題にも思われているが、もう少し深刻だ簡単に説明するならば、人間社会が排出したペットボトルやビニール袋など様々なプラスチックごみ(廃プラ)が海に流れ出し、長距離・長期間を移動する中で粉々に砕け、1mmよりもさらに小さい「マイクロプラスチック」になり、それが魚やクジラの体内に蓄積され、さらには海洋深層水などの飲料水となって人間も飲み込んでいるという問題だ。プラスチックが漂うのは表層だけはない。比重の重いプラスチックは海の底に沈み、また比重の軽いプラスチックも微生物などが付着すると沈む。さらに表層から海流によって海底に引き込まれ、深海を旅するという。とてつもない量のプラスチックが海に漂流しているのだ。マイクロプラスチックが発生するメカニズムは、まだ完全には解明していない。しかし、プラスチックは人間社会が作り出したもののため、人間社会に原因があることはほぼ間違いない。人間社会がプラスチックの排出を止めない限り、海洋汚染は止まらない。

日本のプラスチック対策は進んでいる?

_101683652_ngm_0618_plastics_007プラスチック削減の話題になると、日本は「海外より遅れている」という人がたくさん出てくるが、反論する人もいる。「日本は昔からプラスチックの分別回収をしているから、むしろ海外より進んでいるんだ」と。確かに日本では、プラスチックの分別回収が世界でもトップクラスに進んでいる。国連が2018年に発表した報告書でも、日本の回収は見習うべきだとも指摘されている。分別回収されたプラスチックは、リサイクルされていることになっている。日本が発表している数字では、日本のプラスチックのリサイクル率は84%で、世界的に見てもかなり高い。コンビニやスーパーで買い物をした食品トレーやビニール袋も、多くの人が分別してプラスチックごみとして捨てるようになってきたので、これもリサイクルされている。こう考えると、日本のプラスチック対策は進んでおり、日本からはプラスチックがさほど海にも流出していないようにも思えてくる。とすると、日本ではこれ以上プラスチック対策は不要なのだろうか。残念ながら、そうとはならない。結論から言うと、日本は回収したプラスチックの7割以上を、“燃やして”いる。日本人は、一生懸命分別回収した廃プラは、きっと新しいプラスチック製品に生まれ変わったりしていると思っているのだが、実際にはそのほとんどは、国内で燃やされて消えてなくなって終わりだ。それでも統計発表されている「リサイクル率84%」も、決して嘘をついているわけではなく、これも正しい。一見矛盾に思えるこの謎は、どこから来るのだろうか。

マテリアル、ケミカル、サーマルの3つのリサイクル4dd2f7e8
重要な点は「リサイクル」という言葉の範囲だ。日本には「3R運動」という言葉があって、プラスチックそのものを減らす「Reduce」、使い捨てではなく再利用する「Reuse」、リサイクルする「Recycle」の3つをしましょう、と教育されている。最初の2つはわかりやすい。それでは、リサイクル、日本語訳では「再資源化」とは一体何なのか。そして日本のリサイクル率84%のリサイクルとは一体何のことなのか。日本の政府及び企業は、リサイクルには、「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」「サーマルリサイクル」の3つがあると定義している。マテリアルリサイクルは、ペットボトルごみがペットボトルに生まれ変わるとか、廃プラが駅ホームのベンチやバケツに生まれ変わるなど、モノからモノへと生まれ変わるものだ。多分、人が想像する「リサイクル」のイメージに一番近い。但し、このリサイクル方法だと、リサイクルする度にプラスチック分子が劣化してしまい、どんどん品質が悪くなり、使えないものになってしまう。そこで新技術として期待されているのがケミカルリサイクルだ。ケミカルリサイクルは廃プラをひとまず分子に分解してからプラスチック素材に変えるので、何度でも再生できる。理想的なリサイクルのように聞こえる。しかし残念ながらこの方法は、分子に分解する工程に大掛かりな工場がいるため、資金やエネルギーが結構かかる。日本のリサイクル率84%のうち、ケミカルリサイクルはわずか4%。マテリアルリサイクルも23%である。さらにそのうち15%は中国に輸出されてからリサイクルされていて、国内でマテリアルリサイクルされていたのは8%にすぎない。今年に入ってから中国政府がごみ輸入を禁止したので、輸出分も行き場をなくしている。

残りはつまり、「ごみ発電」だ
それでは、残りの56%を占める「サーマルリサイクル」とは、一体なんなのか?サーマルとは、「熱の」という意味だ。サーマルリサイクルは、非常にシンプル。ペットボトルなどのプラスチックをごみ焼却炉で燃やし、その熱をエネルギーとして回収する仕というものだ。回収された熱は火力発電や温水プールに利用されたりしている。ごみを用いた火力発電は「ごみ発電」とも呼ばれている。プラスチックはもともと原油が原料なので、よく燃えて高熱を発する。生ゴミなど水分の多いゴミは燃えにくく温度が下がるので、プラスチックはいい燃料になるのだ。ごみ発電には他にも、廃材等を燃料にするものもあるが、木よりも原油由来のプラスチックの方がよく燃える。これが日本のプラスチック「リサイクル」84%のうちの56%の正体である。このサーマルリサイクルが、日本でリサイクル率が世界トップクラスを誇る「打ち出の小槌」だ。しかし、リサイクルには「循環する」「回る」という意味がある。形状や用途の違う製品になるのは正確にはリサイクルではないという意見もあるぐらいなのに、プラスチックが熱エネルギーに変わることを「リサイクル」というのはさすがにおかしいと感じないだろうか。その感覚が世界の標準だ。なぜなら、海外にはサーマルリサイクルという言葉はなく、「エネルギー回収」や「熱回収」と呼ばれ、そもそもリサイクルとみなされていない。海外でのリサイクルの主流は、マテリアルリサイクルや、ちゃんとモノに生まれ変わるタイプのケミカルリサイクルだ。

これは3RのReduceに相当する。これに対し「ストローや
マドラーだけでは不十分だ」と主張した人もいるが、当然これらの企業は他にも動き出している。紙で代替することが難しいコールドドリンク用のカップについても、生分解性プラスチックに置き換える検討をしていることをすでに告知している。