父の夢

 父は今年65歳。先月退職を迎えた。titi中堅食肉加工会社の開発部長として、大学の化学を卒業してその道一筋家族の為に一所懸命尽くしてくれた。製品は、美味しさとは裏腹に添加物たっぶりで、見た目は綺麗な食品開発。食品添加物は、マル秘だし家族も話せない。戦後、食品添加物の恩恵を一番受けた業界は食肉加工業界だと思う。スライス真空パックのハムは1年を過ぎても色は作り立て、正味期限をみなければみずみずしさは変わらない。食肉加工においては、認可されているいろんな添加物を駆使して
お弁当やサンドイッチには欠かせない存在になり、消費量も食の欧米化や肉神話も相まって売り上げはいまでも上昇している。亜硝酸ナトリウム?これは発色剤でが摂取過多で癌の報告もされている。

 ハム私は、管理栄養士の資格をもって仕事をしているが、食品添加物の危険性や食養生の話は独学で学んだ。父の仕事を知る内に、無口な父がなんとなく許せなくて父の職業に反発してこの10年は全く会話もしなかった。

 その父が、退職をして半月後是非お前にお願いしたいことがあるといってきた。父に反発する気持ちを抑えてとりあえず話を聴くこととした。父は私を見るなり、大粒の涙をこぼしていた、私の今迄してきたことで、人生を終わらせていいものだろうか?これからは、お前の応援がしたいし、日本人を健康にしたい。今なら、まだ懺悔の道が開けるかも知れない。退職金もそれなりにあるし、いままでとは180度違った道を歩みたい。父の本心を確かめて私は本気モードで話す父の気持ちを汲んで立ち上がろうという気持ちになった。日本人に正しい食事を伝える為にがんばろう。お金も出す。早速、来月2人の優秀な社員を採用し、全国で講演しよう。健康アドバイザーとしてふさわしい人材を。タバコは吸わない、日本人、毎日お酒を飲まない人、お酒に飲まれない人、体育会系の明るい人、通勤は1時間以内で、生活習慣病患者はダメ、年30日以上出張可能。入社後3月は私の研修を受けれる人、男女問わず、年齢問わずだが20歳代が好ましい、視力は裸眼で0.7以上がいいな、聴力はふつうでいい、初任給500万。父は、すらすらと上機嫌でメモを書いていた。私は、父の本気度を気にしながらも、今ならまだ許せるかも知れない。大嫌いだった父と、こんなにも楽しく過ごせるのは何十年ぶりだろう。翌日から、父の言うとうり、インターネットや求人雑誌の採用記事を載せた。

講演料は、1回20万。キャリアを考えれば、すぐにでも友人からジャンジャンオファーがある筈。会社に縛られない自由な生活が待っている。みんな健康に不安を持っていない人はいない。健康アドバイザーを日本全国に広め、健康な日本人を増やしたい。とりあえず、各都道県に10人、健康アドザイザーになれば、会社名で講演が出来その収入の一部を契約によって納付してもらう。

500万ならすばらしい人材が確保できることが約束されているようなもの。3日間で、電話は52件、履歴書も届いた、結局締め切りまでになんとなんと18名の応募があり、スタートは順風満々。にこやかな笑顔、きれいな文字、アピールだってすばらしい。その中で3人を選任して第二次面接の手紙を出した。みんなそれぞれに立派な方で二次試験を経て1人を採用することにした。採用当日の朝がきた。おはようございます。父は自分の思いを静かに語り始めた、10分も話を聴いて、いよいよ誓約書にサイン。1人が、手を振るえごめんないと突然に採用を辞退した。正直私は500万に目がくらんでいた。ほかの2人もそれを聞いて、顔をさげた。あなた方の目指す事業はすばらしい、でももう日本では長年加工食品によって生活習慣病でない人なんて、いないですよ。。今時、玄米菜食の勧めを説いて
人はその資格の為に3万円もの授業料がどんどん入るって時代錯誤だと思います。


その夜、父に親しい取引先の友人から1本の電話があった。新規の事業は一切手伝えない。何故、貴方が退職した途端に今迄とまるっきりはんたいの道を歩むのが理解できない。噂は瞬く間に前社の耳に入り、常務執行役員、つまり上司から明日朝、概要説明せよとのメールが入った。父は、帰るなりゲッソリし、明らかに死に人のよう。会社には、守秘義務かあり君は理解した上で退職を許可し、莫大な退職金を支払った。これから、君がやろうとしている事は、我が社とは関係ないと考えるなら、これを許さない。会社の第一線で、一番のキーマンが、たとえ関係がないと言い張っても、世間が許さない。即刻、計画は白紙撤回し、決意文を提出した。会社で知り得た事を餌に批判する事は一切あってはならないし、いい加減な中途半端は話で、資格をあたえるなんてありえないと。父は肩を落とし、自分が家族のために一生懸命にしてきたことが、どれだけ日本人の健康を害してきたことか?くやんでも悔やみきれない、最後に一言。私はもう口出しは一切しない。この話は無しにしてもらえないだろうか?自分だけが、ある日突然、偽善者の仮面を被って綺麗に装っても決して過去は消せない。


急に父がいとうしくなって、なぜかわたしだけは父を静かに見守ってあげたい思いになった。父が悪いのではない、そう思い込みたい。父は、警備員や運転手はまるっきりダメ。生きる気力が失せ、痴呆もすすみ、毎日家でブラブラなにかに怯えるように生活している。

最盛期は北海道内の食品加工卸業界売上第1位

1976年に田中稔が創業。当時は食肉の加工と販売が事業の中心であった。最盛期は道内の食品加工卸業界売上第1位であった。

文部科学大臣表彰創意工夫功労賞を受賞

2006年4月には「挽肉の赤身と脂肪の混ざり具合を均一にする製造器」を開発したとして文部科学大臣表彰創意工夫功労賞を受賞

社長は自ら肉の研究をし、社内では肉の事を知り尽くした天才

牛肉偽装、水増しの手法・手口・テクニック

牛肉100%の挽肉の中に豚肉、鶏肉、パンの切れ端などの異物を混入させて水増し

色味を調整するために血液を混ぜる

味を調整するためにうま味調味料を混ぜる

消費期限が切れたものをラベルを変えて出荷

腐りかけて悪臭を放っている肉を細切れにして少しずつ混ぜる

ミートホープ事件のその後

2008年3月19日に不正競争防止法違反(虚偽表示)と詐欺の罪で懲役4年の実刑判決を受けた。社長は「早く罪を償いたい」と控訴せず、判決は確定

現在は、バイキングレストランのイートアップの経営を田中稔の長男が行い、バルスミートの経営を田中稔の次男が行っている。

日本テレビ系列『ザ!世界仰天ニュース エコ&偽装3時間スペシャル』 (2011年6月1日 19:00~21:54)