日本酪農推移

の 日本の酪農家戸数は、1963 年(昭和 38 年)のピーク時には約 41.8 万戸ありましたが、1975 年(昭和 50
年)には約 16 万戸、10 年後の 1985 年(昭和 60 年)には約 8.2 万戸にまで急激に落ち込みました。それ以
後も年平均で約 4~5%の酪農家が離農し、2014 年(平成 26 年)では約 1.9 万戸とピーク時から約 23 分の 1
まで減少しました。
その反面、1 戸当たりの乳牛飼養頭数は増加し続け、日本の酪農規模は酪農先進国のEU の国々に肩を並べ
るほどになりました表 2。2014 年(平成 26 年)では 1 戸当たり平均乳牛頭数は 75 頭、生乳生産量が年間約
733 万トン(平成 26 年度)となっています表 3 表 4。
規模拡大により安定供給される生乳は、約 53%(390 万トン)が飲用牛乳等になり、46%(336 万トン)はチー
ズやバターなどの乳製品に加工されています。

 

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代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

 

NHKの「世界食糧危機」の感想など

 先週の金曜日と日曜日の二回にわたって放送されたNHKスペシャルの「世界同時食糧危機」、すばらしい内容でした。何が良かったって、中米のエルサルバドルを事例に、自由貿易が飢餓の原因となったことを取材を通して論証していたことでした。その図式は以下の通りです。

 エルサルバドルはアメリカに要求されてトウモロコシ輸入を自由化 → 米国からの輸入トウモロコシに市場を席捲される → 農家は困窮し離農 → 国内には耕作放棄地が激増 → バイオエタノール・ブームでトウモロコシ価格が急騰 → 飢餓が発生

 もちろんこのような図式は、エルサルバドルのみならず、アフリカや他の中米やカリブ諸国、アジアではフィリピンやインドネシアなど、他の多くの国々に同様に当てはまります。

 番組では、鈴木宣弘氏(東大教授)が登場して、アメリカの政策の実態が、自由化とはほど遠い、「攻撃的保護主義」の実践であるという点を指摘していました。 
 つまりアメリカは、途上国が食糧自給を確、保するための内向けの農業保護政策を撤廃させる一方で、自国のトウモロコシには輸出補助金の大盤ぶるまいで、外向きに市場を歪めながら輸出攻勢をかけてきました。さらに今回のバイオエタノールにしても莫大な補助金を投入して市場を歪めながら、穀物価格を上昇させ、飢餓を誘発させてでも、儲けようとしてきたのです。まさに攻撃的保護主義であり、アメリカが他国に「市場主義」を強要しつつ、自国の農業政策には市場主義のかけらも存在しないのです。
 そして、その背後には穀物メジャーからの献金を受け、穀物メジャーに奉仕するアメリカ議会の姿があります。まさに「金で買えるアメリカ民主主義」といわれる所以です。

 ちなみに今月号(11月号)の月刊『現代農業』(農文協)で、鈴木宣弘氏がアメリカの「攻撃的保護主義」について執筆しておられます。『現代農業』の自由貿易批判の特集の一貫です。じつは鈴木氏の論文のあとを受けて、『現代農業』の来月号(12月号)と1月号には、私の執筆したWTO批判・自由貿易批判の論文が掲載される予定です。興味のある方がおりましたらご笑覧ください。このブログを読んでいたという『現代農業』の編集部の方が、私に原稿を依頼してくださったのです。

 私は、このブログで「自由貿易に異議を唱えることは日本の言論界では実質的にタブーとなってきた」と書いてきました。今回、NHKがその「タブー」を破ってくれたので、溜飲が下がる爽快な気分になった次第です。あの番組を制作したスタッフの皆様に心からの敬意を表します。時代の潮流は変わりました。
 
 しかしながら民放では、いまだああした番組を制作するのは難しいでしょう。自由貿易を推進する経団連系の企業がスポンサーであるため、どうしてもスポンサーに配慮してしまうからです。NHKはとりあえずスポンサーの顔色を伺う必要はないので、ああした番組を作れるのでしょう。

 しかし民放でも例外はあります。残念ながら私は見れなかったのですが、TBSの「ニュース23」でも、以前(何ヶ月か前)、こうした観点での番組が作られていたと知人から聞きました。ニュース23では、ハイチの事例を取り上げて、IMF(=米国)に要求された農産物貿易自由化によって、国内の水田が荒廃し、アメリカからの輸入に依存するようになった結果、今回の飢餓に至ったという事実を報道していたそうです。ハイチの人々は、泥を混ぜてつくったクッキーで飢えをしのいでいるのです。泥ですよ!! こうした自由貿易の弊害に関する報道を検閲せずに流したニュース23の制作スタッフの
姿勢は賞賛に値します。たぶん、取材をしたのはフリーの方なのだと思いますが、心から敬意を表します。
 
 もっともニュース23は例外でしょう。日本のほとんどのテレビも新聞もいまだに今回の飢餓と自由貿易を結びつけて報道しようとはしません。たとえば、新聞などは、今回の食料価格高騰の原因の一つとして「中国やインドなど途上国の経済成長によって需要が増え……」などと解説してきました。それは全くの誤りです。正しくは、「中国やインドの農産物貿易の自由化によって輸入が増え……」と言うべきなのです。その理由は、前に書いたこの記事(「国際政治最大のタブー(関税政策)に挑む」)を参照下さい。しかし、マスコミはそうは報道しません。
 私は、その記事で、インドや中国の農産物貿易自由化が、ブラジルやインドネシアの熱帯林破壊を生み出し、世界的食糧危機の原因になっていると訴えました。私の知人のフリー・ジャーナリストがその内容を面白がってくれて、そうした観点での番組の作成を某テレビ局の某番組に持ち込んだそうなのですが、その番組のディレクターは、「それって本当に自由貿易が原因なの~。違うんじゃない~」などと、あからさまにWTO批判・FTA批判の観点での報道を嫌がったそうです。ちなみに「中国が悪い」みたいな番組にすると喜んで許可してくれるのだそうです。

 厳しい現場での取材をしてくるフリーのジャーナリストは、その成果を安く買いたたかれます。スポンサーの顔色を伺いながら番組の質を落とすことにしか能のない正社員のディレクターなんかが、フリーの仕事を搾取しながら、その何倍もの高給を稼ぐのです。こりゃ、テレビ番組も腐りますわ・・・。

 まあ、民放なんて基本的にはそんなものです。それだけに、ニュース23のような、少数の気骨ある番組のディレクターが、「タブー」を打ち破ってくれている姿には拍手を送りたいと思います。

  
 私は、林産物に関して一貫して関税を引き上げるべきだと論じてきました。学術論文でもそう書いてきましたし、このブログでもそう訴えてきました。そうした私の主張をブログで読んだということで、今年の6月なのですが、最近創刊されたばかりの環境月刊誌『オルタナ』(非常によい雑誌です)の編集部から電話があって、「輸入木材への関税を引き上げるべきだ」という私のコメントを今年の7月号の誌面に載せてくれました。時代が変化しつつあるのを実感したものでした。

 その雑誌の編集者の方は、私がこのブログでさんざん批判している某全国紙のワシントン特派員もやったことがある方でした。「アメリカにいた頃、取材で自由貿易についての批判的意見もずいぶんと聞いたが、とてもそれを紙面に載せられるような雰囲気ではなかった。○○新聞的にはありえない話だった」と正直に語ってくださいました。その新聞社をやめてフリーになってから、自由にものを考えられるようになり、自分も変わることができた、と言っておられたのが大変に印象的でした。それで、わざわざ私のコメントなど載せて下さったのでした。

 ちなみに、日本が輸入する外国産の丸太への関税は0%なのです。WTOにおいては、木材は工業製品と同等の扱いを義務付けられており、農業に許されている数十%程度の関税すら許されていません。こんなおかしい話はない。林産物のような自然資源は、工業製品とは別枠にして、自由貿易の対象から外し、持続性に配慮できるようにせよ、というのが私の持論です。

 皆さん、造林・育林の費用が全く必要とされない海外の原生林から乱伐されてやってくる天然材と、多大なコストをかけて40年以上も費やして育成された国産人工材を競争させるのが「公正」だと思いますか? 天然材と人工材を競争させることほど理不尽な話はないのです。
 せめて50%程度でもよいから関税をかけることが許されたら、日本の木材自給率は飛躍的に向上するでしょうし、木材価格が上昇して、日本の林業家は、伐採跡地の造林費用も払えないというほどに困窮することもなくなるのです。それは日本の森林環境にとっても、国外の天然林の保全のためにも、地球温暖化対策としても、非常に好ましいことなのです。