山懐に抱かれて

「みんなが幸せになる、
おいしい牛乳をつくりたい」
山の牧場を切り拓く吉塚一家。
雨の日も雪の日も、
泣いた日も笑った日も、
その歳月はいつも
家族とともにありました。
美しくも厳しい岩手の自然を背景に綴る長編ドキュメンタリー

岩手県下閉伊郡田野畑村に暮らす、5男2女・9人の酪農大家族。
一家が営むのは、一年を通して山に牛を完全放牧し、大地に生えるシバと自前で栽培する牧草だけを餌に牛を育てる“山地酪農”。自然の営みのなかから生み出される、その理想の酪農の実現を胸に、大学卒業後この地に移住した父・公雄は、山を切り開き、シバを植え、牧場を育ててきました。

プレハブの家でのランプ生活が続くなか授かった7人の子どもたちは、父の背中を追うように牧場を元気にかけまわり、手伝いをし、すくすくと育っていきます。夏には冬のための草を刈り、秋にはヤマナシの木に登ってその実をオヤツに、冬にはみんなで薪を拾い、春には仔牛が生まれる…四季の風景に彩られ、休むことのない牧場の暮らし。

一方、自然とともに歩む“山地酪農”ゆえの課題は、次々と一家の暮らしの前に立ちはだかります。
限りある乳量、広さに応じて決まっている牛の頭数、販売価格の調整…ジレンマと闘いながら試行錯誤を繰り返す日々は続きます。
みんなで囲む楽しい食卓、周囲の支え、成長した子どもたちと頑なな父との衝突と葛藤、そして仲間とともに踏み出したプライベートブランド《田野畑山地酪農牛乳》設立への挑戦、第二牧場への夢————。

山懐に抱かれて、365日24時間“いのち”と向き合いながら、愛情いっぱいに育まれるその営みを大切に綴りました。