肉はいらない?

 

 1月末に発売された『長生きしたけりゃ肉は食べるな』(若杉友子/幻冬舎)が、いま注目を集めている。発売直後に重版がかかり、売上ランキングでも上位に食い込むなど、ベストセラーの予感を漂わせている。著者は76歳の食養研究の第一人者。病院にかかったことはおろか、健康診断を受けた経験もなし。“白髪もなく、歯も丈夫、老眼にもなっていない”という驚きのプロフィールなのだ。

 しかし、不思議なことに、この本をamazonでチェックすると「よく一緒に購入されている商品」に表示されるのは、同じく1月に発売された『肉を食べる人は長生きする』(柴田 博/PHP研究所)というもの。まったく真逆の主張をタイトルに掲げる本がともに購入されているようだ。果たして、肉は食べるべきなのか、食べないほうがいいのか……両書を読み比べてみたい。

 まず、「長生きしたければ肉は食うな」派の主張を読んでみよう。こちらは「日本人には肉は合わない」と一刀両断。その理由は、日本人は「農耕民族で穀物菜食をしていたため腸が長く」、肉の消化には時間がかかってしまうこと。「肉のカスが腸内に長く残り、腐敗」することで、「さまざまな毒素が発生し、血液が汚された結果、内臓や細胞の機能がうまく働かなくなり、炎症を起こしてしまいます」。その炎症こそが「細胞のガン化」というのだ。さらに、「肉好きの人はガンや心臓病などの循環器系の病気で倒れることが多いなど、日本人の有病率が、肉が身体に悪いことを証明しているのです」といい、“肉を食べていると長生きできない”と警鐘を鳴らす。ちなみに肉のほかに卵や牛乳などの動物性タンパク質も同様によくないらしく、牛乳をうまく消化できない日本人にとっては「牛乳からではなく、野菜や豆類から必要なカルシウムをとるべき」という。

 一方、「肉を食べて長生き」派はどうか。『肉を食べる人は長生きする』の著者は、医学博士で日本応用老年学会の理事長。こちらは昔、日本人の国民病といわれていた脳血管疾患の死亡率が、1965年の調査で肉を食べている人ほど低いことが明らかになったことを挙げ、ほかの食品では代替できない肉に含まれる特異な機能に注目。うつや自殺予防の働きがあるセロトニンの原料や、コレステロールの酸化を抑える働きがあるカルノシンなど、肉によって摂取できるものの利点を並べている。また、牛乳に関しても、日本人が摂取するようになって寿命が延びたことを考えると「長寿と健康に役立
つことは明白」という。

 まさしくタイトルが示していた通り、まったく見解が異なる両書。しかし、実は両方とも、「肉を食べるか食べないか」に本題が置かれていない点は共通している。『長生きしたけりゃ肉は食べるな』が説くのは、一汁一菜の食事の重要性。食物の“陰陽”を理解し、体質に合った食事を心がけることが大事だという。また、『肉を食べる人は長生きする』は、長生きの秘訣を「いろいろ食べること」とし、噛む力を鍛えることや運動など、高齢者にとって大切な生活習慣を指南している……どちらにせよ、主張が違うことに変わりはないようだ。

 肉を食べるか、食べないか。どっちの健康法を取り入れるかは、あなた次第。それぞれに納得させられる部分はあるので、ぜひ読み比べてジャッジしてみてはいかがだろうか。

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