日本農業があぶない
日本の農業政策はおかしな方向に進んでいる。このまま進めば、日本はGMO(遺伝子組み換え作物)メジャーの進出を許してしまう。やがて天皇陛下は遺伝子組み換え米で新嘗祭を執り行なうことになる──『
』(飛鳥新社)著者の三橋貴明さんが警鐘を鳴らしています。
●日本の農業が穀物メジャーに食い荒らされる
2015年の農協改革を皮切りに、安倍政権は日本の食料安全保障を弱体化させる政策を次々に推進していっている。
理由は、別に「日本の食料安全保障を破壊しよう」といった話ではなく、単なる特定企業のビジネスのためだ。
例えば、農協改革では全国農業協同組合連合会(全農)について株式会社化が可能になった。なぜ協同組合である全農を株式会社にしなければならないのか。理由は世界最大の穀物メジャー「カーギル社」に、全農を買収可能とするためだ。
全農はアメリカに全農グレインという子会社を所有している。全農グレインは各種作物について、種子の段階から生産、流通において分別管理(IPハンドリング)し、数百万トンの穀物をアメリカから輸出している※。
※IPハンドリング:遺伝子組み換え作物の表示に関する規定。正式には「遺伝子組換え農産物及び非遺伝子組換え農産物を生産、流通及び加工の各段階で善良なる管理者の注意をもって分別管理し、その旨を証明する書類により明確にした管理の方法」( )
全農、全農グレインの存在が、カーギルにとって「利益最大化の障壁」になっているのである。何しろ全農グレインがIPハンドリングを提供する以上、カーギルもやらないわけにはいかない。IPハンドリングは当然コストアップ要因になる。
さらに、全農グレインは株式会社だが、親会社の全農は協同組合である。協同組合である以上、アメリカからの穀物輸入に際し、全農はそれほど利益を乗せない。もちろん適正な利益を取る必要はあるが(さもなければ事業を存続できない)、あまり無体な利益は乗せてこないのである。
すると、カーギルもまた阿漕(あこぎ)な利益を上乗せできなくなってしまう。一応、グローバルな穀物市場では「競争原理」が働いている。カーギルの値段が高すぎると感じた顧客は、より安く穀物を提供する全農から買うだけだ。
全農はカーギルにとって、自社の利益を圧迫する最大最凶の敵なのだ。
全農(厳密には全農グレイン)さえ存在しなければ、カーギルはIPハンドリングという面倒なオペレーションから解放され、かつ利益を上乗せして、グローバル市場に穀物を売り込める。
カーギルとしては「企業買収」により全農グレインの脅威を取り除きたいところである。とはいえ、全農グレインは株式会社だが親会社の全農は協同組合連合会である。全農の株式を買い取り、全農グレインごと傘下に収めることは不可能だ。
さて、どうする。諦めるか。
諦めるはずがないのである。
というわけで、2015年農協改革において、全農の株式会社化を5年後から可能にする法律が可決された。2020年以降、カーギルはあらゆる手段を使い、全農の株式会社化(及び株式譲渡制限の撤廃)を達成しようと図るだろう。
農協改革の問題点(問題しかないのだが)については、筆者が2015年9月に刊行した『亡国の農協改革』に詳しい。
さて、2016年から2017年にかけ、農協改革同様に、日本の食料安全保障を破壊する決定的な法律が制定された。厳密には法律がなくなったのである。
すなわち、種子法廃止だ。
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